2003-01-01から1年間の記事一覧

上村一夫『ヘイ!マスター』

1980〜82に増刊ビッグコミックに掲載された『ヘイ!マスター』は、ゲイバーのマスターが裏仕事人として活躍するが、ヤクザの矢島の方が存在感あり。でもやっぱり上村一夫の場合、女を中心に見てしまうのはボクの悪い癖か。 1982年、近代麻雀オリジナルに連載…

尾辻克彦『贋金づかい』

退屈。贋金だからかの千円札事件につながるのはまだしも、トマソンから抜け出せないのは、さすがに退いてしまう。巨人のトマソンがどうたらとか余計なんだよね。 『超芸術トマソン』の一節「ビルに沈む町」で紹介された天徳湯の無用エントツが異界への通路と…

森瑶子『カナの結婚』

女が、というより、女だけでなくむしろ男が、超えていくためには、どうしても抜け出さなければならないことがある。そしてそれは必ず破壊をともなう。 森瑶子は、ほんとへたすりゃハーレクイーンにとどまってしまうような食材をもとにして、とびきりのご馳走…

南Q太『タラチネ』

「恋愛物語」1〜6,「タラチネ」、「ゆめのはなし」、「頭痛の種」、「わずか10センチ」の短編集。 いわゆる少女漫画からもうちょっとアダルトにシフトしたあたり。全然、作風や時代背景なんてものはちがうけれど、上村一夫の『同棲時代』などに通じるか…

荒木経惟『すべての女は美しい』

副題が『天才アラーキーの「いい女」論』 写真論なんてのはもう軽く跳び越えてしまって、副題通りの「いい女」論。で、そんなのも超越してしまって、「いい人」論。「いい人」なんていうとマヌケだけれど、例えば、引用した部分を「自分でもバカで、欠点があ…

横尾忠則『芸術は恋愛だ』

全編が語り下し。つまり編集が横尾と対談というか、質問していくのを、横尾がしゃべりまくったのを記録したという本。がががーっと調子のってしゃべりまくってるところもあるんだけれど、意外と別にこんなこと横尾じゃなくってもPHPオヤジがよう言うとるやん…

中上健次・荒木経惟『物語ソウル』

路地はソウルの町にもあった。そしてソウルの路地に龍造が生きていた。ところで中上の小説群はとにかく男が目立つのだが、実のところ女系家族にがしっと支えられている。そしてこの『物語ソウル』でも、龍造の存在を継いでいくのは女なのだった。 一方、荒木…

荒木経惟『写真への旅』

『写真への旅』(1976 朝日ソノラマ「現代カメラ新書」)を加筆修正 元は1976年の発刊だから、中に写っているアラーキーのお姿もずいぶん可愛く、髪もけっこう残っている。「私写真」の原型はすでにこのときにあった。 写真とは、ファインダーの中での肉眼戦に…

北村薫『スキップ』

17歳の女子高生がある日、突然、40いくつだかのオバサンに"スキップ"する。それは25年先の自分。時代は昭和から平成に移ってしまっているのだ。と、大林宣彦の尾道三部作のようなファンタジー。いや、ファンタジーというには主人公・一ノ瀬真理子にと…

宮本輝『幻の光』

ついこないだ、是枝裕和監督の『幻の光』見たところだから、江角マキコの印象が残ってて。やっぱり映画見るより先に原作は読んでおくべきね。 それはそれとして、この頃の宮本輝っていいね。ゆみ子の関西弁の告白文体で、『錦繍』とはまた違った趣があって、…

森瑶子『カフェ・オリエンタル』

ちょっとヘタすりゃ鼻持ちならない話を、文章の隙間から噎せ返るような熱帯の熱気と湿気、その気怠さ、頽廃を手品のように出してしまうんだから。サスペンスでありながら、ただのサスペンスにしてしまわない、いやほんとへたすりゃ火サスになりかねないんよ…

荒木経惟『荒木経惟文学全集 五 写真指想』

韜晦写真論ー「無論100%」 凡人にかかれば「沈黙は金、雄弁は銀」かもしれないけれど、天才アラーキーの雄弁は白金、回路の日和なのでR。いやぁ、おもしろかったなぁ、400数十ページほぼ一気に読んでしまった。バンパイアなみに俄然インスパイアされちんこ…

石内都『モノクローム』

女であるからこその醒めた視点でとらえられた「傷」を突きつけられては「センチメンタル」な男に勝ち目はない。それ以前に勝負にならない、悔しささえ湧き起こってこない。モノクロームの怜悧な刃物。 石内都自身の『横須賀』『連夜の街』『1・9・4・7』を中…

つげ義春『貧困旅行記』

不思議なことに、ときに見栄張って分不相応なところで豪遊してみたくなる。そのあとの白じらした自分自身への苛立ち。ところが逆に自虐的に、自分自身を失くしてしまって、《漂泊のこころいまださめず》と下向きのベクトルに身をまかせてみたくもなる。その…

林忠彦『林忠彦の世界』

少し前にまごまご日記にも書いた写真家林忠彦の東京都写真美術館での写真展の図録。『カストリ時代』や『文士の時代』などの写真集はもうほとんど手に入らないだろうし、コレクターでもないのだから、このような図録というのは貴重。 かのルパンの太宰治はも…

谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』

キショーっ!とか、この死に損ないのエロ爺ぃなどと言うてるうちは、まだまだケツが青いのだよ。なんて書いて、はっと気づく。予もかなり瘋癲老人の域に達してきた。究極の老後。憧れる。 ヲカシナコトダガ、痛イ時デモ性慾ハ感ジル。痛イ時ノ方ガ、一層感ジ…

川端康成『眠れる美女』

若い処女が、処女だぞ、処女!が全裸で眠っているとなりで添い寝をするってえのは非常にエッチ臭いだろ。しかもエッチしたら、ダメなんだぞ。たちの悪いいたづらはアカンのだぞ。眠っている女の子の口に指を入れようとなさつたりすることもいけませんよ。を…

谷崎潤一郎『蓼喰ふ蟲』(1929)

ぎゃふん。文章、構成の上手さがどうこうとか、決して言えませんって。す、すごすぎる。話の中に文化論であるとか、もちろん恋愛観であるとか、織り込まれているのだけれど、その論考のバックボーンの大きさに畏れおののくばかり。最近の作家のってその逆な…

須藤英一『日本百名道』

須藤さんは個人的に知ってるからあんまり言えないんだけど(^_^ゞ ちょっと優等生の解答を見せられたようでもの足りない。たしかに外すに外せない道ばかりなんだけれど、もっとバイク乗りという視点からの思い入れの込められた道がリストアップされていてもい…

石井隆『名美』

こんな腰痛いときに読んでてどうすんだモンのエロ劇画でありますが、8編どれもがレイプ、あるいはそれに近いのであって、これって、男が女を犯すことでひたすらに下降していくというか、だからって女が下降してしまうってわけでなくて、男にとっては究極の…

川端康成『住吉』(1949)

短編だから(^_^ゞ 継母いじめの『住吉物語』を種に、川端康成のなんとも言えない女性観というか、屈折というか、要するに川端康成流の変態性がほの見える。ほんま短編のくせに重いの。

川端康成『禽獣』(1935)

川端康成が自作中でもっとも嫌った作品で、自己嫌悪の対象として主人公に投影したとされる。禽獣というのはいまでいうペット。小鳥、犬、などの禽獣に対する愛玩の裏返しとしての冷酷さが、女に対してまで及んでくるという川端康成ならではの耽美さが、この…

川端康成『水晶幻想』(1931)

わけわかんねぇ(^_^ゞ 犬の人工授精。発生学の研究に、精子、卵を顕微鏡で見る夫。三面鏡を見る女。人間の体外受精は?鏤められたことばの洪水。うはぁ〜〜降参。 ごくごく日本的な作家(それ故にノーベル文学賞を受賞したんでしょ)、川端康成が、ヨーロッ…

村上龍『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』

これってタイトルと構成でとても損をしている。このいかにもって感じのタイトルではちょっとパスしとことなるわ。それにレストランの料理で章立てしてるの、これもずいぶんです。《茨城産 仔牛とチンゲン菜のプレゼ シャンパン風味》をいをい、やめてくれ。…

谷崎潤一郎『卍(まんじ)』(1931)

同性愛の話だとは誰でも知ってても、読んだことないやろ。かくいうボクも読んだことなかったのだ。そして読むからには、舊かなで読もうね(笑) 上手いなぁ、むちゃくちゃ。これまで何度も上手いというのは聞かされてるし、当たり前のことながら評価はでき上が…

荒木経惟 / 町田康『俺、南進して』

まずは荒木経惟の写真ね。新世界、天王寺、銀橋、安治川、南霞町、和泉府中?...と、大阪ロケ。モデルは町田康。うーん、いつもながらにいいねぇ。って感心してるのは、ボクのまわりでほとんど同意してくれんの。ぼてっ腹のおばちゃんの写真が入ってるからか…

田口ランディ『コンセント』

いちおう読みましたけどね、むなしいなぁ....話がせつないであるとか、虚無感に貫かれているというのじゃなくて、話そのものが空嘘(←あえて口偏つけておきました)。ことばに重さがない、すこすこなんだ、ことばそのものが希薄なので、それらをいくら重ねられ…

吉本ばなな『ハネムーン』

出てくる人物に実体感が非常に希薄。とくに一人称小説のわたし=まなかの相手である裕志が見えてこないのはどうしようもない。だからこの二人に関わる人物も見えない。顔すらも浮かんでこない。と、なると、あちこちに撒き散らされたことばもふわぁーっと通…

泉鏡花『眉かくしの霊』(1924)

旅先に出て霊に出会う話。ってその旅先が奈良井だったから、何となく知ってるような。でもこれまで何度も奈良井に行ってながら、この話の舞台が奈良井だと知らなかったとは... で、奈良井に行く前に松本に行ってるんだけど、松本の宿の無愛想なことをしきり…

泉鏡花『高野聖』(1900)

あらかたの話はいろいろ聞き知っていても、きっちり読んだら、やっぱりおもろいなぁ。しかもちゃんと舊字舊かなのテキストで。ここらは舊字舊かなでないと気分が出やんでしょ、なんて、ところどころ読めなかったりもするんだけど。 蛭の森のむごたらしさなん…