『マドンナの真珠』

はじめてガラス箱の内部をのぞき込んだユラ子は、たがいに逆方向を向いてぴったり重なり合った雌雄の二匹が、どうしても二匹とは思えず、ひとつの見事な、有用性をはなれた彫刻品が砂の上に置かれている思った。そのまま、じっと動かない。ユラ子が固唾をのんで見守っていると、しかしこの二匹のヨロイガニは、驚くべき愛情交歓を果たしつつあることが知れた。上下に重なった二匹は、たがいに相手のからだを少しずつ食い合って、徐々に、上下の体勢を入れ替えているのである。それが完全に逆転するということは、完全に相手のからだを食うことであった。ヨロイガニにとって愛情の交換はただちに存在の交換であった!