2004-03-01から1ヶ月間の記事一覧

堀江敏幸『ゼラニウム』

この堀江敏幸って人の文章はいいんだかどうなんだか。確かにエスプリの効いた文章は美しい。が、それが逆に邪魔をするときもあるわけだし、フェティシズムに彩られもする。クセになりそうな気配がする。 「薔薇のある墓地」「さくらんぼのある家」「砂の森」…

中上健次『水の女』 (「文学界」1978.11)

浜村龍造のプロトタイプのような富森。《女を明日、浮島にある遊廓に連れていく算段をしていたと気づき、「ええんじゃ、ええんじゃ」と女を抱き寄せ》ることしかできない男。強烈なセックス描写にそそられる以上に、男の悲哀というのも変なんだけど、何かし…

中上健次『鷹を飼う家』(「すばる」 1977.2)

古座の「水が膨れ上がり、壁のように立つ」海に迫られる閉塞感の中でケモノとならざるを得ない人間。『鳳仙花』のプロトタイプ シノは嫁いでから今日の今日まで、鷹の餌の腐肉のにおい糞のにおいによくがまんしたと思った。並の女では耐えられないと思った。…

中上健次『かげろう』 (「群像」1979.1)

この「かげろう」というのは「蜉蝣」なんだろな。と、いうのは森山大道の写真集に『蜉蝣』というのがあったから。森山大道にしては珍しい裸の写真集で妙にこの『かげろう』とかぶる。読んでいると『蜉蝣』の写真が思い起される。ひたすら、底の見えない下降…

中上健次『赫髪』(「文藝」 1978.5)

宮下順子と石橋蓮司で、神代辰巳監督によって映画化された『赫い髪の女』は日活ロマンポルノ名作中の名作。まごれびゅを書く前に読んでみて、再度読み直してみた。そこで「熊野という風土」などと書いているけれど、この『赫髪』そのものは中上の中にあって…

『水の女』

1979年作品社より出された短編集 集英社文庫 中上健次全集2

谷崎潤一郎『春琴抄』

中上の『ふたかみ』なんぞを読んだら、やっぱりもう一度『春琴抄』を読み直さなアカンワってことになってしまうでしょ。意外と谷崎の筆の運びは冷静だった。ごく淡々と。いつの間にか『春琴抄』をルーツとするもので、もっと激してるかと思いこんでいたのだ…

綿矢りさ『蹴りたい背中』

本人も語呂がいいと言う「最年少芥川賞」。 いきなり「かわりばんこに顕微鏡を」などと出てくると、さすがに引いてしまった。このような言葉の使い方に対する違和感がずっと感じてしまう。それと選評などでもよく言われていた世界の狭さが気になる。でもこれ…

金原ひとみ『蛇にピアス』

噂の芥川賞。ピアス、刺青、身体改造....村上龍が『限りなく透明に近いブルー』で登場したとき、そのドラッグ、セックスというところで、センセーショナルに騒がれたけれど、同時代の人間として、いまさらドラッグもないだろが...って気になった。いまの金原…

中上健次『ふたかみ』(「文學界」 1985.2)

中上版『春琴抄』 「立彦、ずっとわたしの見た物と同じ物見えたんやのに、他所行ておかしいなった。眼を潰したろ。立彦、それの方が似合うよ。綺麗な顔してるから、化粧して、女の着物きせて、それでここへ住ましとくん。昔やったら、そうしょうれ、と言うた…

中上健次『刺青の蓮花』(「新潮」 1985.1)

究極のエロティシズム。中上健次の重要なアイテムのひとつが「血」であることに改めて気づかされる。SMへとなだれ込んでいくが、それも当然の帰着点かもしれない。これこそが日本のSMの極致。 女が十吉の蓮花が性の興奮とともに赫く花弁をふくらませてい…

中上健次『よしや無頼』(「新潮」 1982.1)

10何ページにもわたって、改行字下げなし。「 」で括られた話し言葉もその中に取り込まれて、すこすこの文章に慣れた目には、ほとんど経文のようで気絶するだろうな。かなりのエネルギーと集中力が必要。一文そのものより、文章のかたまり感に圧倒される。 …

中上健次『愛獣』(「新潮」 1988.5)

嫌悪感をいだき続けながらも、女の在る世界に引きずり込まれざるをえない男。たらい、梅の臭い、歯ブラシ......『高野聖』? 女は男を閨の中で子供を扱うように愛撫した。雨戸を閉め、いかほどに強い臭気であろうと、芳香であろうと用意に入り込めないよう硝…

中上健次『残りの花』(「新潮」 1983.1)

全集で10ページほどの掌編。ほんと短いけれど、路地の暑苦しさや、十吉と女の情感が溢れている。短編集『重力の都』の中でいちばん好きな気がする。 十吉はどんなに優しくても、女に優しすぎることはないと思った。 暗くした家の中で、女と同じように眼がき…

中上健次『重力の都』(「新潮」 1981.1)

御人にとりつかれた女を解き放つために由明がとったのは、女を異世界に突き落とし、自らも女とともに落ちていこうとすること。中上健次自らが「大谷崎潤一郎への佳品への、心からの和讃」というべく『春琴抄』が念頭にあったはず。 由明はそんな幻を女が見聴…

中上健次『重力の都』

中上健次『重力の都』 単行本 新潮文庫 『中上健次全集10』

三島由紀夫『三熊野詣』

短編集『三熊野詣』に集められた四編中の一編。中上健次から「熊野」のキーワードで三島に行ってはみたけれど、中上のような強烈な土着性を期待するほうが無理。美を裡に包み込もうとするベクトルのほうがずっと大きいな。 そして先生自身が、何か醜怪なもの…