2003-10-01から1ヶ月間の記事一覧

吉行淳之介『砂の上の植物群』

これが中平康監督で映画化されたのはボクがまだ中学生の時。そのころ、『砂の女』、『砂の器』というふうに、やたら《砂》というのが目についた。当時の中学生にとって非常に扇情的だったのが、印象に残っている。親父の本棚から『砂の上の〜』をこっそり抜…

花村萬月『永遠の島』

SFというかね、強引すぎるんだよな。相対性理論、ローレンツ短縮だなどと振りかざされても、ボクのような半ば理系人間にとっては鼻白むばかり。そこへ観念論をこじつけ、塗り固めようとしてくるんだから、うんざり。まぁこういうSFもどきのロマンってのは…

坂東眞砂子『蛇鏡』

やっぱり基本的にホラーってのは嫌いじゃないけど好きじゃない。怖さというのは人間の潜在的に底に流れている情念やアンビリーバブゥな行動のほうが怖いわけで、それを蛇神などに一元的に被せていくのは、その怖さを忌避するためのもののはず。したがって怖…

ひさうちみちお『オシャカ』

釈尊誕生の隠された秘話。当然のことながら、ひさうちにかかると神も仏もガネーシャもあったもんじゃない。というところが素敵。そこはかとない教養がにじみ出ておる作品。20021216 Mon1983 青林堂

唐十郎『きみと代わる日』

あいかわらず唐の小説といのは読みづらい。芝居は見てるとこっちの意志と関係なく進んでいくが、小説となるとかなりのエネルギーとイマジネーションの喚起が必要。唐的人物の暗躍する汚水がぽたぽた落ちる地下道にひっぱりこまれて、脳内をかきまわされてほ…

中平卓馬『中平卓馬の写真論』

1973年に晶文社から出た『なぜ、植物図鑑か』からの再編集されたオン・デマンド版。元の『なぜ、植物図鑑か』なんて高値で買えません。 時代が時代なだけに政治評論かと思える硬派な書き振りで、このような類の文章というのはほんと久しぶりに読んだよ。あれ…

水上勉『雁の寺』

読もう、読もう、読むつもりでほったらかしていた水上勉。『五番町夕霧楼』とか『越後つついし親不知』とか、読んだつもりで、実は読んでいなかった水上勉。やっと読んだわ。といっても四部作のうちの最初の『雁の寺』だけ。このあとに続く『雁の村』『雁の…

内田春菊『仔猫のスープ』

短編が10編ほど。相変わらずの春菊のほわんほわんした絵でありながら、ぐぐっとサスペンス。さらっと仕上げてしまう怖くないところが怖い。表紙カバーの猫の写真のくせして、短編の一つ「仔猫のスープ」なんて怖いのだから。20021003 Thu1993 集英社

上村一夫『修羅雪姫』

ひょーっ、やっぱ、上村一夫はかっちょいいいい! たらまん 女を描かせたらもう最高。とくにこの『修羅雪姫』のような時代物、といっても江戸ではなくて明治だけれど、になるとしびれまくり。連載はたしか1973頃の漫画アクション 話は母の怨念を一人背負って…

真崎守『はみだし野郎の挽歌』

思いきり70年代的臭さがぷんぷん漂う。たとえば「国境の長いトンネルを抜けると」「そこにはまたトンネルが続いていた」なんてその典型。さすがに「ご時勢だもんネーッ」と受け流しはしているけど、そのご時勢を思いだすと恥ずかしくもなる。 これはたしか『…

藤沢周『藪の中でー[ポルノグラフィ]』

「芥川賞作家が挑む、初の官能小説」と帯に記されてる通りのポルノそのもの。『愛人』もかなりエロかったけれど、これは全編通して(「週間アサヒ芸能」連載では6ヶ月間)、ただ1回の性交渉を描きあげている。だから、読む側はじらされ、じらされ、まんま…

姫野カオルコ『整形美女』

筒井康隆、清水義範というラインは元来好きでないから。ひとつひとつの話や目の付け所はおもしろいものがあるけれど、彼女のタッチはどうしても好きになれない。むしろバカっ話に徹してくれるか、エッセイとして読んだ方がまだ馴染める気がする。よく最後ま…

赤坂真理『ヴァニーユ』

人の満たされない欠損、空隙、それを埋めるのが、シリコンであったり、男であったり、ときには言語であったり、そして自己自身と埋めるべくそこに存在する他者、異物との境界面が熱い。とくに『ヴォイス』は赤坂真理、これまでの最高作と思う。欠損を書かせ…

淺井愼平『通り過ぎた町』

雑誌『歴史街道』に連載されたのをまとめたもの。1997〜2000の比較的最近の取材なのでオンタイムさの良さがある。さすが淺井愼平の視点と思わされる面とちょっと情緒的すぎる面とが相半ば。20020820 TuePHP 2001

唐十郎『魔都の群袋』

これ、唐によっぽどはまってないと読めないよなぁ。1969〜74年あたりに唐があちこちに書き散らしたエッセイとも評論とも言えないような(^_^ゞ ボクでも、ゑ?わけわからんと思うことしばしば。が、当時の状況劇場知ってたら、むふふふと思えることもしばしば…

上村一夫『狂人関係』

1973年の漫画アクション連載か。かの『同棲時代』直後、夢中になって毎週読んでいた懐かしさが先行。こうして30年経て、一気に読み通しても、やっぱり胸キュンになるのは変わらない。あの当時、北斎もそんなになんだかんだと言われることもなかったが(北斎…

荒木経惟/陽子『愛情旅行』

二人が泊まり歩いた日本の旅館・ホテルでの話で、これといっておもろくはない。軽井沢万平ホテル、上高地帝国ホテル、奈良ホテル....ええ、とこばっかり泊ってやがんの。万平ホテルなんてお茶しただけ。帝国ホテルなんて朝食食べに入っただけ、奈良ホテルは…

末井昭『素敵なダイナマイトスキャンダル』

文学論やゲージュツなどとは無縁の世界に生きたはる人ですから、あ、末井昭って何者やねん?という人のために紹介しときますと、『写真時代』などという荒木経惟が半ば私物化した雑誌の仕掛け人、またその筋の「カルチュア」の仕掛け人。そのようなスエーの…

佐藤信『あたしのビートルズ』

いまでも胸が震える。どきどきする。ボクはボクなりに今でもこの戯曲の演出プランは抱いてるよ。 『ゴド待ち』じゃないかと言われれば、『ゴド待ち』だろうけど、いま、この時代だからこそボクらは無意識にゴドーを待ち続けてるはず。『あたしのビートルズ』…

阿川弘之『鱸とおこぜ』

タイトル通りの鱸とおこぜの物語。ビタミンC補給せよとおこぜの忠告に釣り上げられる鱸の悲哀。ところで鱸はわかっていながら「しゃち」と読んでしまうのだよなぁ。「しゃち」は鯱なのにねぇ。

庄野潤三『プールサイド小景』

悲哀を一身に抱え込んでしまう中年男の悲劇。と言い切ってしまっていいものだろうか。どこか身につまされもするが、まじに人生考えてないから。とこれでこれで芥川賞もらったんだってね。それも時代のせいなのか。

吉行淳之介『風景の中の関係』

どろどろとした現実と夢想の往復は、ラストの「冷たい水がぎっしりと躯を取り囲んだ。やがて、頭が海の上に突き出た。大きく息を吸って、また海の中に潜り込む。暗い。目茶苦茶に手足を動かしてみる。また海面に浮かび上がる。」こういう情景をもってこさせ…