中上健次『刺青の蓮花』(「新潮」 1985.1)

 究極のエロティシズム。中上健次の重要なアイテムのひとつが「血」であることに改めて気づかされる。SMへとなだれ込んでいくが、それも当然の帰着点かもしれない。これこそが日本のSMの極致。

女が十吉の蓮花が性の興奮とともに赫く花弁をふくらませているのを美しいと言った。十吉は女の声に促され、確かにつるべ差しの日に足のすねから血を流し痛みに呻きながら凝固せずいつまでも止まらない血におびえたのを思い出した。他所で痛みに耐えて彫った蓮花が、上気する度に血をにじませ輝くほどの緋に変るのを知った時も、おびえた。女は刺青の蓮花に唇をつけ、吸った。背中の蓮花に直に物言いかけるように、若衆の肌の刺青に顔をうずめられるのもつるべ差しのおかげだと言い、くつくつ笑い、十吉の腕を取って両の乳房をつかませ、閉め切った雨戸の中で亭主に求められ応じながら、つるべ差しじゃ、つるべ差しじゃと竹竿でたたく雨戸の音を耳にしながら、雨戸が破れて若衆皆なに寄ってたかって犯されるとも、肉をちぎられて食われるとも思ったと言った。女は汚点(しみ)ひとつない白い肌をしていた。女は十吉にのしかかり、十吉の体をまたいだまま気をイきかかり、十吉が起きて上になると、こらえかねるように背中に爪を立てた。痛みが起き、刺青の蓮花の肌が破け血を流す不安のまま十吉は女と共に果てた。女は蓮花の肌から流出した血を吸った。