綿矢りさ『蹴りたい背中』

maggot2004-03-08

 本人も語呂がいいと言う「最年少芥川賞」。
 いきなり「かわりばんこに顕微鏡を」などと出てくると、さすがに引いてしまった。このような言葉の使い方に対する違和感がずっと感じてしまう。それと選評などでもよく言われていた世界の狭さが気になる。でもこれは仕方ないか。そういうの差し引いて、とにかく『蹴りたい背中』というタイトルがいいな。

「なんで片耳だけでラジオを聴いているの?」
 振り向いた顔は、至福の時間を邪魔されて迷惑そうだった。発見。にな川って迷惑そうな表情がすごく似合う。眉のひそめ方が上品、片眉が綺麗につり上がっている。そして、私を人間とも思っていないような冷たい目。
「この方が耳元で囁かれてる感じがするから。」
 ぞくっとっきた。プールな気分は収まるどころか、触るだけで痛い赤いにきびのように、微熱を持って膨らむ。またオリチャンの世界に戻る背中を真上から見下ろしていると、息が熱くなってきた。
 この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。痛がるにな川を見たい。いきなり咲いたまっさらな欲望は、閃光のようで、一瞬目が眩んだ。
 瞬間、足の裏に、背骨の確かな感触があった。

単行本