吉本ばなな『ハネムーン』

maggot2003-11-03

 出てくる人物に実体感が非常に希薄。とくに一人称小説のわたし=まなかの相手である裕志が見えてこないのはどうしようもない。だからこの二人に関わる人物も見えない。顔すらも浮かんでこない。と、なると、あちこちに撒き散らされたことばもふわぁーっと通り過ぎていくだけ。ラスト近くで明かされる秘密も、なんら決め手にならない。
 『キッチン』も同様に非常に閉じられた限定された世界にとどまっていたけれど、ずっとずっとリアリティを持っていたのに。突き刺さってくるものがなくて、ぼけた犬の感覚に収束してしまってる。
[ISBN:]

「島っていうのは、ほんとうに海に浮かんでいる小さな土地なんだなあ。まわりの世界の方が、あんなに巨大だなんて、考えたこともなかった。あんなに高い所から見なければ、海がこれほど広いものだということを知ることはなかったかもしれない。」

1997 中央公論