荒木経惟 / 町田康『俺、南進して』

maggot2003-11-05

 まずは荒木経惟の写真ね。新世界、天王寺、銀橋、安治川、南霞町、和泉府中?...と、大阪ロケ。モデルは町田康。うーん、いつもながらにいいねぇ。って感心してるのは、ボクのまわりでほとんど同意してくれんの。ぼてっ腹のおばちゃんの写真が入ってるからか、あまりにそっけないからか。まぁ、いいや。
 その荒木経惟にコラボレートして、どっちがシンクロさせたんだかわからないけど、たぶんキャリアからして、荒木経惟町田康にシンクロさせたんだろう。町田康が展開する物語の説明的な写真になっとらんのがこれまたいい。しっかり荒木経惟荒木経惟で写真で小説やっちゃうんだから、天才なのであります。
 して町田のほうの物語は、俺、好きなんよね、かの語り口。無責任放埒バイオレンス。なにが、鯵川じゃ(゜゜)

 はんはんはん、ふんふんふん。という息遣いに交じってときおり、どさっ。どさっ。という音がする。なんだろうと思いつつも行為を続けていると、目の前の、眉根に皺を寄せ苦しげな女の顔に、赤黒い毛の生えた毬のようなものが落ちてきて、猛烈な悪臭、ぐわっ、とわめくと同時に俺、はむ、と気を遣った美しい女の顔に半分にちぎれたどろどろの栗鼠うそ寒い思いで立ち上がり空を見上げると縦横無尽に張り巡らされた電線に夥しい数の烏みな捉えた栗鼠をくわえていた泥にまみれて倒れている女ぴくりとも動かない、俺、そうだ鶴を見るのだったと半ば義務的に女の脚のところにかがみ込みライターを捜して上衣のポケットをまさぐったそのとき頬に鈍い衝撃咄嗟に手で押さえると顔面がぬるぬるしている鼻血だしかしそれでも俺は左手で打撃をかわしつつ鶴を探そうとするのだけれども打撃は間断なく続いてちっとも鶴が見られない、俺、少しは静かにしやがれと向き直って腹と顔拳固で何度か殴りつけると静かになって打撃が止んだのでああ拳が別の血でぬるぬるするとおもいつつもいま一度脚をまさぐったのだけれどもそうするうちにも千切れ栗鼠が降ってきて、身体が下の方に10センチばかり、ぴくんとさがった。

1999 新潮社