野坂昭如『トテチテタ』(1968 「小説新潮」)

戦後20年経っても野坂は戦争にこだわり続けていた。戦争を越えてもなお、突撃ラッパとなったラッパを磨き続けることでしか存在を確かめられない男。『トテチテタ』という題名の響きは太宰治の『トカトントン』を思い起こさせる。

あの時、中に入っていた女学生はなにを考えていたのだろうか、保たちは、実は女をその中に封じこめた巨大なペニスを、必死になってこすり立てていたともいえる。女学生は、あらかじめこの筒の用途を聞かされていて、やがていくらか口をきくようになった一人の説明では、「爆撃機に積んでな、敵艦の上で離すねん、ほしたらこれロケットになってて、えらいスピードで命中するねんわ」「人が乗ってか」「そらそうや、舵とらなあたらんやんか」男っぽい口調でいい、彼女たちは、自分の磨き立てたこの席に、若武者が乗りこみ、敵艦もろともちりぢりにくだけちるその姿を思い浮かべていたのだろうか。表から見るとあれはペニスに似ていた。しかし、内に入れば、子宮なのかもしれない、彼女たちは子宮の整備にいそしんでいたのか。