唐十郎『二都物語・鐵假面』

maggot2004-06-07


二都物語』は1972年状況劇場の芝居で、これを札幌に呼んだこともあって、ボクには思い入れが深い、深すぎる。いまはもうだいぶ忘れてしまったけれど、その当時はほとんど台本まるごと憶えていた。
この戯曲の中で万年筆が出てくるが、たしかこの『二都物語』の状況劇場のチラシに、万年筆はパイロット、セーラー、パーカーと水にまつわるものが多い。この『二都物語』も水、海峡物語だというようなことが書かれていた。
満州から朝鮮海峡へ、そして状況劇場がインド、パレスチナへと旅立っていく節目となった作品。

そうすれば、あんたは生き返ってくれるでしょ? 痰壺を覗くときれいになるように。暗い夢を見ると過去が現在になるように。あたしのおまじないで生き返らないものなんかありゃしあい。


 血が出ることに変わりはない筈。あたしを捨てる男は、いつだってニセモノさ。ニセモノに会うためのおまじないに。ニセモノのコートに、最後にニセモノの裏切りだったらいいのにねえ。このコート、かえすわ。さようなら安モノのコート
そういって、あんたはこのコートを受け取ってしまうのね。一度もかぶったこともなく、一度も雨にぬれたこともないこのコートを。さよなら、一つもいいことのなかったこのコート。このコートをかぶって、二人で海峡を渡りたかったのに。

(1973 新潮社)