荒俣宏『ゑびす殺し』 (1990 徳間)

 88、90年に主に「SFアドベンチャー」に掲載された短編『ゑびす殺し』、『長生譚』、『迷龍洞』、『蟹工船』、さらに書き下ろし『恋愛不能症』の5編からなる短編集。
「あとがき」にもあるように、順に、幸田露伴夢野久作五木寛之小林多喜二森鴎外,渡辺淳一にインスピレーションされてるらしい。
 標題の『ゑびす殺し』、それから『長生譚』は七福神に関しての荒俣の蘊蓄からスタートするけれど、逆に彼が得意とするだけにつまらなかった。蘊蓄が昇華しないまま中途半端に終わってしまってる。ゑ、どこが、幸田露伴であり、夢野久作なの?って首をかしげてみたくなる。この2つで一度投げ出しかけた。
 『迷龍洞』あたりから、妙な気負いがなくなったのか、五木よりずっとおもしろい仕上がりになってる。ふっとかき消えてしまうラストがすごくいい。映画みたいよ。これなんか映画にしたらすごくおもしろいのできるだろうな。
 『蟹工船』- 小林多喜二というのは、ボクには文学史のお勉強の上だけの話でしかなくいんだけど、《人魚》という荒俣アイテムが出てくるものの、そのラインが膨らんでいかない。膨らまないから、逆によかったりする。
 『恋愛不能症』、あーん、渡辺淳一に捧げるだって?ケッ 森鴎外に捧げるってのはわかるけれど。で、ちょっと鴎外を意識しすぎたか、鴎外の文体の真似してみてもシャレになってない。けれど、この話が一番おもしろかったから不思議。ネタが屍体だけに緊迫感があって、それに「森林太郎」をからませる発想って最高。
 思うに、荒俣のアイテムから離れたほうがずっとおもしろい。『ゑびす殺し』、『長生譚』は荒俣アイテムが邪魔をして文学しない。やっぱり荒俣自身がこういう文学では勝負はできないというのよくわかってるみたい。でも赤瀬川が尾辻レーベルで書けるように、荒俣も自分の持ち駒を横においといて書けばきっとおもしろいと思うんだけどなぁ。

20011031Wed