荒木経惟 / 森まゆみ『人町』

maggot2004-06-28

谷根千ネットの森まゆみアラーキーが、彼女の地元=谷中・根津・千駄木を、月1回1年かけて、歩きまわり撮り集めた笑顔だらけの写真集。ボクも、今年の春に数時間だけど、谷中を歩いていて、ちょうどお花見のときね。知った場所とか出てきてうれしい。
「町には笑顔がなくっちゃ。笑顔の人生こそが幸福。人生は幸福でなければいけない。」とアラーキー。いいなぁ、こんな笑顔ばっかり撮れて。カメラを向けると笑顔が返ってくるのはアラーキーの人徳か。ボクなんか暗い後姿ばっか。
森まゆみのショートストーリーがこれまたすごくいいんだよねぇ。最後十二月の「私の神様」なんてせつないよね。幸福って何だろ?

「さいしょ、マネキンかなんかたくさん乗せてるかと思って、近くまで来たら真っ黒焦げの死体がぎっしりゆらゆら揺れている。穴を掘ってそれを並べて、土をパラパラかぶせて、また並べて……。まるで大根漬けてるみたいだった」
 こんな悲劇でも、どこかに笑いを入れないとやってらんないのが下町である。ほんとに死んでしまえば人間なんて、大根みたいなものなんだ。むしろそのものいいに胸をつかれた。
 戦後、落ちついてから八柱霊園などに改葬されたというけれど、まだ少しは骨が残っているのかもしれない。
 その上で、春は花見の宴が咲く。坂口安吾桜の樹の下には死体が埋まっている、といったけれど、それは本当の話なのである。

  (1999 旬報社)