中井英夫『人外境通信』(平凡社 1976)

 13編の短編からなる連作。薔薇、此岸と彼岸の倒錯など『幻想博物館』からつながる中井英夫特有の幻想世界。ただ、一連の作品としてはまとまりがあるようでまとまりに欠けるような気がしないでもない。そこのところは中井英夫自身があとがきで「さりげなくかわす形で貫きたかったものが、次第に崩れ、いわばうちつけな本音のまま終わったことが心残り」と言うように通底するものがあるようでなく、そのためにいまいち入り込めない空疎感が残ってしまった。一つ一つは格調高いのに。

20021228 Sat