堀江敏幸『いつか王子駅で』

maggot2004-04-13

 うーん、これもねぇ。前半は1999年「書斎の競馬」という雑誌に連載されたという。だからか、競馬の話に移り変わっていくのだけれど、競馬に関して、ほとんど知らないボクにとってはおもしろいはずがない。話は都電荒川線、とくに町屋駅前から王子駅前の路面になっている周辺で人たちの生活から、『残菊抄』や『サアカスの馬』などの文芸評にほとんどシームレスに流れて、そして競馬につながる。この茫洋としていながらも、精密な描写が堀江敏幸の持ち味なんだろうけれど、生活の臭いがいまひとつ読みとりにくいんだよなぁ。

そんな光景を眺めているうち朝からずっと波立っていた心がだんだん鎮まって、やはり来てよかった、と私は思った。と同時に、もし目の前の席に座ってゴンドラを平衡に戻してくれるひとがいるとしたらそれは誰だろうとも考えていた。

(新潮社 2001)