澁澤龍彦『高丘親王航海記』

maggot2004-12-18

 澁澤龍彦の遺作。この『高丘親王航海記』を執筆と同時に、喉に異常を知り、気管支切開手術も受けている。これの構想はすでにあったはずで、まさに遺書として著したと言ってもいいんじゃないかって気がする。それだけに、読んでいると、何とも言いようのないものにとりつかれてしまう。生の壮大な決着点(それが天竺という形で具現されるのだが)にいざなわれていくのを止めようがないのだ。
なんとも薬子の影がほろ苦くて

とりわけ親王の目を惹きつけたのは、それらの上空に飛んでいる豊満な鳥のからだをした女であった。天人の羽衣とはあきらかにちがって、鳥の翼、鳥の羽毛を生まれながらに身につけている。ひとたびそれに目をうばわれると、もうそのほかのものはほとんど見えなくなってしまった。
「これ、なに。」
 指さして、声をひそめて、親王は聞いた。
「迦陵頻伽よ。」
「カリョービンガ。」
「そう天竺の極楽にいる鳥よ。まだ卵の中にいるうちから好い声で鳴くんですって。顔は女で、からだは鳥。」
「薬子に似ているね。」
「あら、そうかしら。」
 親王のいう通り、その天平美人の系統をひいた、ふくよかな、おっとりした、ものに動ぜぬ顔のつくりは、薬子のそれと共通した特徴といえばいえないこともなかった。

 (1987 文藝春秋 (文春文庫)

『狂った生きもの』

 

生きるということ。そして死ぬということ。誰一人そこから逃れることはできない。私たちはこの世界にたった一人でやってきて、立った一人で去っていくのである。そのほとんどが寂しく、おびえて、人生の大半を無駄に送るのだ。……いまこうして生きていても、死はかならずやってくる。生まれたばかりの子供らだが、やがて憎しみをおぼえ、痴呆になったり、ノイローゼになったり、馬鹿になったり、弱虫になったり、人殺しになったりする。生きたって死んだって、どのみち無ではないか。

村上春樹『海辺のカフカ』

maggot2004-11-19

 内に向かう思索というといいのか、それがほとんど間断なく出てくるから、読んでるほうも疲れます。森山大道のマネして言ってみると「そんなに思い悩んでいたらツライだろ?春樹クン」
 が、作者と格闘してみるのも、疲れはするけれど、スポーツのあとの汗のような快感がある。
 またちょっと村上春樹にはまってみるかな。
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 ところで、枝葉末節を突くようですが、
 山小屋にカフカを連れて行った大島さんは「近くにきれいな流れがあるから、水はそれを汲んできて使えばいい。すぐそこで湧き出た水だからそのまま飲むことができる。そのへんのミネラルウォーターよりはずっとまともだ。」と言っておきながら、その5ページ前で山小屋に行くのにコンビニに立ちよってミネラルウォーターを買い込み、山小屋に着くと、そのミネラルウォーターでやかんをすすいでから、そのミネラルウォーターで湯を沸かしてティーバックでカモミール茶を淹れてるんですけどね。ミネラルウォーターって何なんでしょうか。そしてカモミール茶である必然というのが全く感じられないんだよね。ただの紅茶で十分でしょ。カモミール茶であることが、ボクには逆にこそばゆくて仕方がない。これはほんの一例であって、春樹にはそういうこそばゆい些細な部品がやけに鼻につく。そんなところが、ボクから春樹を遠ざけてしまう一因になってる気がする。

上巻: 下巻: (2002 新潮社)

藤原マキ『私の絵日記』

maggot2004-11-03

5年前(1999年)に亡くなったつげ義春の奥さん=藤原マキの絵日記。やっぱり似てくるのか、絵のタッチはつげ義春によく似ていて、つげ義春を可愛くしたような絵。
1972年頃だったか、つげ義春が不安神経症となる頃のつげ家のできごとをマキさんのサイドから見ていて興味深い。生命力があったんだね

学研M文庫 

『ジャパン・アヴァンギャルド』

maggot2004-10-26

 60年代後半から70年代にかけての状況劇場天井桟敷、68/71(黒テント)のポスター集。1ページ1枚で100枚のポスターがA3サイズで集められている。
 思い起こすと、この時代がサブカルチャーにとってもっとも熟していた時期だったのだ。横尾もすごいけれど、粟津潔平野甲賀合田佐和子林静一篠原勝之及川正通といった錚々たるメンツが並ぶ。
個人的には状況劇場初体験の『愛の乞食』や、思い出の『二都物語』も収録されていて、むちゃうれしい。

(2004 PARCO出版)

花村萬月『ジャンゴ』

maggot2004-10-24

 ジャンゴというのはジャンゴ・ラインハルトから。左手の薬指と小指がない伝説のギタリスト。が、花村萬月の描いたジャンゴは愚にもつかないジャンゴになりはてた。ジャンゴ・ラインハルトのファンの人は読まないほうがいい。火を着けたくなる。ずばりドラッグがらみのセックスヴァイオレンスに芥川賞作家の見る影も無残。

( 角川文庫)